水利用の状況
水利用の状況(中流七曲ブロック)
古くより大井川では、豊富な水量と急峻な地形特性を活かした水利用が進められており、昭和3年に大井川源流部に発電を目的とした田代ダムが建設されて以降、数多くのダム・堰堤などの取水施設が建設されてきた。取水施設の総数は現在では29箇所となっており、これらの取水施設から取水された水は、発電用水、農業用水、上水道用水、工業用水などとして、流域内外で幅広く利用されている。
大井川水系における現在の水利権量の内訳は、全最大取水量の94%を発電用水が占め、5%が農業用水、その他の用水が1%となっており、発電用水としての利用が大半を占めている。
発電用水の合計使用水量は、従属発電を除く14箇所の発電所の合計で約670m3/sとなっており、総最大出力64万kWの発電が行われている。また、これらの発電所の一部は導水路で結ばれており、発電用水の高度利用が行われている。
農業用水については、かんがい期最大取水量約38m3/s、非かんがい期最大取水量約15m3/sとなっており、かんがい面積は約13,000haとなっている。主な農業水利である国営大井川用水は、かつて「ざる田」と呼ばれるほど大量の用水を必要とした左岸側及び常に用水不足に苦しんでいた右岸側へ、大井川の水を安定的に供給しており、地域の発展の礎となっている。
上水道用水・工業用水としては、大井川広域水道、島田市上水道、あるいは製紙工場などの工業用水などで約4m3/sが使われるなど高度に利用されており、これらの用水供給地域には、大井川流域内の島田市、藤枝市、焼津市の3市と、流域外の掛川市、菊川市、牧之原市、御前崎市、袋井市の5市が含まれ、合わせて8市となっている。
また、平成14年3月に建設された長島ダムには、治水機能のほか、流水の正常な機能の維持やかんがい、上水道用水、工業用水に関する利水容量が定められ、多目的ダムとしての機能を果たしている。
大井川水系の水利状況(平成30年12月31日現在)(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
大井川利水系統図(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
② 水利用に関する課題
大井川は、かつては豊富な水量を誇っていたが、発電などを目的とした河川水の高度利用が進んだことにより河川内を流れる水量が減少し、動植物の生息・生育・繁殖環境や景観といった「流水の正常な機能の維持」に関する様々な課題が生じてきた。
このため、昭和40年代に地域住民などから強い流況改善運動「水返せ運動」が起こり、昭和60年代には県及び電力会社などに対する流量改善運動が活発化し、県、流域市町、電力会社、国土交通省が協議を重ねた結果、塩郷堰堤などの取水施設からの維持流量の放流が開始されることとなった。
また、流水の正常な機能を維持するために必要な流量(正常流量)が、平成18年に策定された「大井川水系河川整備基本方針」において定められるとともに、田代ダムからの河川維持放流(平成18年3月開始)により復活した流量については、国土交通省、県、島田市、川根本町及び電力事業者による「大井川水利流量調整協議会」において、中流七曲りブロック内の取水施設においても従来の維持流量に同量を加えて下流へ放流する旨の合意がなされるなど、流水の正常な機能を維持するために必要な流量の回復に向けた取り組みが進められている。
これにより、動植物の生息・生育・繁殖環境や景観などが改善されつつあるものの、流域住民に対するアンケート調査では、大井川の水量について「やや少ない」又は「少ない」と回答した住民が8割以上を占めており、現在においても一層の流況の改善が求められている。
一方、大井川は渇水による取水制限が頻繁に行われていることから、流況の改善に当たっては水利用の現状を踏まえ、関係機関が一体となった取り組みを進めて行く必要がある。
大井川における過去の渇水対策状況(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
水利用の状況(大井川下流ブロック)
下流ブロックの水利用は、天正の瀬替えの後、東海道の宿場町として栄えた江戸時代に大きく発展した。かつては、大井川の氾濫原が広がっていた平野に位置することから、「ザル田」(ザルのように水を通してしまう水田)と呼ばれるほど大量の水が必要で、また、洪水が起こる度に農地が水に浸かっていたため、水不足に苦しみながら、洪水からの復旧作業にも多大な負担が強いられていた。
現在は、昭和22~43年度に実施された大井川農業水利事業により、安定した流量が供給されていること、豊富な地下水が適正に利用されていること、市街化の進展による用水の必要量が減少していることなどから、顕著な渇水被害は発生していない。また、取水による断水区間の発生などの問題もなく、河川流量に概ね見合った水利用が行われていると考えられる。
下流ブロックにおける水利用は、伊太谷川下流部および大津谷川下流部が大井川用水の通水路として利用されるなど、主に農業用水として約4,000haに及ぶ耕地のかんがいに利用されている。受益面積約3,900ha(27.701m3/s)が許可水利で、このうち約3,800ha(27.031m3/s)は伊太谷川下流部および大津谷川下流部を介して、焼津市、吉田町、牧之原市など、流域外の地域でも広く利用されている。
図3.1 大井川用水のかんがい区域