中流の治水事業の沿革
① 治水計画や河川改修事業の変遷
中流七曲りブロックでは、「大井川水系工事実施基本計画」(昭和43 年)に基づき策定した県管理区間の「河川全体計画」(昭和50 年)による河川改修や大井川中流域浸水対策事業(平成元年度~)による河川改修を進めてきた。
また、平成18 年には「大井川水系河川整備基本方針」が策定され、平成23年には直轄区間における「大井川水系河川整備計画」が策定されている。
大井川における治水計画の変遷(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
② 河川局部改良事業
中流七曲りブロックでは、昭和52 年から河川局部改良事業による河川改修を進めてきた。
主な改修内容としては、築堤工及び護岸工である。
河川局部改良事業の概要(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
河川局部改良事業による改修状況(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
③ 大井川中流域浸水対策事業
大井川中流域浸水対策事業は、島田市及び川根本町における治水上重要度の高い箇所について、河川全体計画に基づき、年超過確率1/10 規模の流量に満たない区間の改修(堤防補強及び護岸整備)を順次進める事業である。
現在は第6期計画(H27~H31)に基づく改修を進めており、堤防補強や護岸整備を行うとともに、沿川の環境整備を行っている。
大井川中流域浸水対策事業の概要(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
大井川中流域浸水対策事業による改修状況(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
大井川中流域浸水対策事業による改修箇所(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
④ 長島ダム(国土交通省管理)の概要
大井川水系では、昭和49 年に工事実施基本計画が改定され、基準地点である神座において、基本高水のピーク流量11,500m3/s のうち上流ダム群で2,000m3/s 調節し、計画高水流量を9,500m3/s とすることが定められた。また大井川では、上水、かんがい用水及び工業用水が既得用水として利用されており、県の総合開発の進展に伴い、志太・東遠地域における水需要は大井川のダム群に依存しなくてはならない状況にあった。
これらのことから、大井川上流に多目的ダムを建設する必要が生じたため、国土交通省は、洪水調節及び水資源開発の機能を有する長島ダムを平成14 年に建設した。
現在の長島ダムの目的と概要(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
長島ダム(国土交通省管理)(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
⑤ 堆積土砂の排除
大井川は、出水時に上流崩壊地から大量の砂礫が生じ、土砂として河道を流下し堆積する河道特性を有しており、上流域で生じた土砂については上流のダム群で捕捉されるが、寸又川などの支川から多量の土砂が本川に供給されている。
昭和30 年代~40 年代は、大井川の砂利が建設事業の貴重な資材として安定的な供給の社会的要請を受け、年平均110 万m3 と大量の砂利採取が実施されていた。しかし、昭和49年の特定砂利採取制度の実施により採取量が規制され、直轄区間・県管理区間での採取量は合わせて60 万~80 万m3/年程度となり、その後、平成12 年に直轄区間での砂利採取が禁止されたことから、近年の砂利採取量は大井川全体で30 万~50 万m3/年程度で推移している。
県では、堆積土砂による洪水被害の防止と砂利の適正な利用を図るため、昭和63 年度から県、川根町(現島田市)、中川根町(現川根本町)、本川根町(現川根本町)及び中部電力株式会社による「大井川堆積土砂排除対策協議会」において堆積土砂排除のための5か年計画を策定し、民間の砂利採取により年間42.5 万m3 を目標に堆積土砂の排除を行っているが、骨材需要の減少や採取コストの高騰などにより堆積土砂排除量は減少傾向にある。
また、毎年度、砂利採取などの円滑な実施を図るため、県、地元市町、中部電力、漁業協同組合、骨材組合などの関係者で構成する「大井川砂利対策協議会」を開催し、各年度における具体的な堆積土砂排除計画を決定している。
近年では、平成29 年2月に「大井川流砂系協議会」並びに「大井川流砂系総合土砂管理計画検討委員会」が設置され、今後の具体的かつ総合的な土砂管理の推進を目指すことを目的とした「大井川流砂系総合土砂管理計画」の策定に向けた検討が行われている。
大井川堆積土砂排除5か年計画(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
県管理区間における堆積土砂排除量の経年変化(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
堆積土砂排除箇所図(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
堆積土砂排除の状況(出典:大井川水系中流七曲りブロック河川整備計画)
下流の治水事業の沿革
下流ブロックの治水事業は、大井川が一級河川に指定(明治27年)され、明治29年より実施された直轄工事による高水工事が一応の完成をみた明治35年以降、水害の発生に合わせて、大津谷川(栃山川沿岸用排水幹線改良事業)、伊太谷川(大井川用水農業水利事業)や大代川(大代川農地防災ダム)などの治水事業が進められた。
各河川の治水事業は表2.3に示すとおりで、認可を受けている河川は大津谷川(伊太谷川~尾川区間)と大代川(大井川~天守沢区間)の2河川となっている。
また、その他の河川、区間においても、地元からの要請に応えた改修事業や災害時の復旧工事等などにより護岸が整備されている。
近年では大津谷川で大井川用水農業水利事業による栃山頭首工の建設工事・大井川サイホン建設工事と大井川用水農業水利事業に合わせた県単独事業による河川改修が、伊太谷川で浸水対策特別緊急事業による根固め工・パラペット嵩上げ工・第9号頭首工の改築、新東名建設に伴う田代調整池の建設が、尾川で特殊堤(パラペット)の施工、大代川で2-7区間の県単独事業が、新堀川で県単費事業が実施されている。
そのほか、大津谷川の道悦旭町線整備事業による道悦旭橋の建設、大代川の往還下区画整理事業による往還下橋の建設、東町都市下水路・泉町都市下水路の樋管建設なども実施されている。
表2.3 各河川の治水事業の沿革
【大津谷川】
大津谷川は大井川の左岸側を流れる河川で、千葉山にその源を発し、途中、右支川の尾川、伊太谷川などの支川を合流し、北から南へ流下して大井川本川の河口から8.9km地点の左岸へ合流する、延長7.2km、河床勾配1/120~1/480の河川である。山裾に近接する区間を除き、築堤河道となっている。大津谷川には、支川の伊太谷川を通じて大井川用水が流入しており、途中、栃山取水口で取水され、下流ブロックの流域外の地域のかんがい用水に利用されている。
大津谷川下流部(大井川~伊太谷川)は、現在の栃山川流域の度重なる水害から農作物を守るため、大正15年から昭和5年にかけて、大井川へ直接放流する放水路として栃山川分水点より下流が新規開削(栃山川沿岸用排水幹線改良事業)された後、国営農業水利事業とこれに付帯する県営かんがい排水事業(S22~S43)により昭和30年代に1次改修が実施され、ほぼ全区間にわたって低水護岸が施工されている。
近年では、高島町地先では頻発していた内水被害を解消するため、救急内水対策事業(H7~H8:静岡県、ポンプ容量2m3/s)を実施している。また、みずべプラン21推進事業(H7~H11)により、堤防沿いの桜並木を活かした親水空間を整備し、地域住民の憩いの場となっている。そのほか、平成17年度より大井川用水農業水利事業による栃山頭首工の建設工事や旧頭首工の頭刎ね、土砂吐き管理のための河床掘削などが実施されている。また、大井川用水農業水利事業に合わせ、平成20年度より県単独事業、緊急総合治水対策事業による河川改修(栃山頭首工~高島橋)などが実施されている。
大津谷川中流部(伊太谷川~尾川)は、小規模河川改修事業(S38.1.24認可)により整備され、一定の治水安全度(当時の評価でW≒1/20)を有している。
また、釣月寺上流の羽田合流点から供方橋(県道伊久美元島田線)にかけては、市民病院のリハビリの一環として、身近な水辺を気軽に楽しめる散歩道づくりや、大津小学校付近では桜づつみモデル事業(H3)と親水公園整備(かわせみ公園:H14)を実施している。
大津谷川上流部(尾川~起点)は、施工時期は不明であるが、災害時の復旧工事等によって、慶寿寺橋下流の桜堤、山付け部を除く全区間で護岸が施工されている。
近年では、新東名高速道路や大津住宅の建設に伴い、橋梁架替(楠ヶ谷橋、大草八幡橋)などの部分的な整備を実施している。
なお、「静岡県水防計画書(H27)」によれば、尾川合流点から上流280m区間は断面狭小により重要度Bの重要水防箇所に指定されている。
【伊太谷川】
伊太谷川は、矢倉山にその源を発し、島田市の中心市街地を流下して、大津谷川の2.9km地点右岸へ合流する、延長6.2km、河床勾配1/50~1/600の河川である。上流の島田市伊太地先では川口取水口から取水された大井川用水が流入している。そこから下流は大井川用水の通水路として利用されており、河川沿いの農地に配水するための取水堰が現在9箇所設置されている。
下流部の左岸及び背後地が水田利用されている区間を除いて、ほぼ掘込河道である。また、下流部は両岸とも家屋が連たんしており、管理用通路は生活道路として利用されている。また、新東名高速道路の建設に伴い、約11万m3の容量を持つ田代調整池が上流部に建設され、島田市が管理している。
伊太谷川下流部(大津谷川~大井川用水)は、国営農業水利事業とこれに付帯する県営かんがい排水事業(S22~S43)により昭和30年代に1次改修が実施され、全区間にわたって護岸が施工され、その後、県営かんがい排水事業によって水路損傷を軽減するための改修工事(S45~S48)を実施している。
近年では、平成10年の台風7・8号をはじめ、内水被害が著しい中央町では、浸水対策特別緊急事業(H13~H15)により櫛型堰の撤去(可動堰に改築)やパラペットによる堤防嵩上げを実施している。
伊太谷川上流部(大井川用水~起点)は施工時期が不明であるが、災害時の復旧工事等によって、山付けとなっている最上流部を除く全区間で護岸が施工されている。
近年では、地元住民の強い要望を受け、新東名高速道路の建設に伴い、伊太谷川下流域の浸水被害軽減も考慮した流出抑制施設として上流に田代調整池が建設(H16)され、洪水時にはその調節効果が期待できる。
なお、「静岡県水防計画書(H27)」によれば、放水路流入点~新東名交差付近の700m区間は断面狭小により重要度Aの重要水防箇所に指定されている。
【尾川】
尾川は、千葉山にその源を発し、島田市の郊外を北から南へ流下して大津谷川の5.7km地点の右岸へ合流する、延長1.8km、河床勾配1/100~1/160の河川である。周囲は水田や畑などの農地や山林に囲まれており、上流の山付け区間は掘込河道、中下流部で水田利用されている区間は築堤河道となっている。
尾川は施工時期が不明であるが、災害時の復旧工事等によって、被災の受けにくい水裏部を除くほとんどの区間で護岸が施工されている。
また、長国橋下流では親水性を持たせるための階段護岸等が施工されている。
近年では、地元住民の要望を受け、洪水時に幾度となく出動していた水防活動箇所にパラペットを施工している。
なお、「静岡県水防計画書(H27)」によれば、大津谷川合流点より上流200m区間は断面狭小により重要度Aの重要水防箇所に指定されている。
【大代川】
大代川は大井川の右岸側を流れる河川で、八高山及び粟ヶ岳にその源を発し、途中、童子沢川、清水川及び新堀川と合流し、旧金谷町の市街地を北西から南東へ流下して大井川15.0km地点右岸へ合流する、延長13.8km、河床勾配1/50~1/330の河川である。
中流部の横岡付近より下流の旧金谷町市街地区間は築堤河道となっており、大井川合流点付近の背水区間においては、大井川の堤防に合わせた築堤高となっている。横岡付近より上流の山付け区間や川沿いが宅地利用されている区間は掘込河道、水田利用されている区間は築堤河道となっている。
また、12.8km付近には大代川沿いの耕地を水害から守るため、昭和36年から昭和43年にかけて調節容量61.5万m3の大代川農地防災ダムが建設され、洪水調節の役割を果たしている。
大代川中・下流部(大井川~天守沢)は中小河川改修事業(S30.12.27認可)および局部改良事業(S56~S62)により整備され、一定の治水安全度(当時の評価で既往最大(W=1/30))を有している。
近年では、最下流部(大井川~高橋)で災害関連事業による再改修(S63~H2)を実施し、平成7年から大井川の堤防高さに合わせる築堤工事(県単独事業)、往還下区画整理事業による二軒屋牛尾線道路築造工事(往還下橋の建設)を実施している。
大代川上流部(天守沢~起点)は施工時期が不明であるが、災害時の復旧工事等によって、山付けを除くほとんどの区間で護岸が施工されている。
また、12.8km付近には県営農地防災ダム事業(S36~S43)により大代川沿岸の耕地を水害から守るために建設された調節容量615,000m3の大代川農地防災ダムがあり、洪水時には相当の調節効果が期待できる。
【新堀川】
新堀川は、大井川と大代川の間に挟まれた旧金谷町の市街地を、北から南へ流下して大代川0.3km地点左岸へ合流する、延長1.1km、河床勾配1/260~1/280の3面張り掘込河道である。
生活雑排水が流入し、護岸も直線的で親水性に乏しいなど、排水路の要素が強い川であるが、上流の川沿いにある水神公園は、桜並木や川越し場跡の看板があり、市民の憩いの場として利用されている。
新堀川は昭和47年~昭和53年度に排水不良の解消と大代川との合流位置が定まっていなかった北部を流れる観勝寺川との一本化を目的に、県営かんがい排水事業によって、全区間3面張りで改修・新設されている。
近年には、地元住民の要望を受け、県単独河川改修事業(H3~H11)により下流400m(大代川~ジオスター専用橋)の再改修を実施し、①河川改修の最低目標を満足していること、②過去20年間に越水による浸水被害を生じていないことから整備を終結している。
また、新東名高速道路周辺の整備に伴い、上流の五和地区では大井川へ直接排水する五和都市下水路が完成している。
【清水川】
清水川は、旧金谷町の中心市街地西側を、北から南へ流下して大代川1.7km地点右岸へ合流する、延長0.4km、河床勾配1/390の掘込河道である。
上流部では複断面化や魚巣ブロックの設置など、環境に配慮した整備が行われている。また、地元住民が清水川の美化推進を目的にはじめた「清水川ミニ鯉のぼり」が「しまだ市民遺産」として認定されるなど、自然愛護活動や清掃活動、環境学習、イベントなどの場として利用されている。
川沿いには家屋が連たんし、管理用通路は生活道路として利用されている。
清水川は施工時期が不明であるが、全区間複断面河道で整備されており、清見橋~清水橋の約150m区間には魚巣ブロックが設置されている。
近年では、都市計画道路金谷五和線の施工(橋梁架替)に合わせて、河川敷を利用したであい公園を大代川との合流点に整備している。
【童子沢川】
童子沢川は、経塚山にその源を発し、旧金谷町の山間部を北から南へ流下して大代川6.8km地点左岸へ合流する、延長1.4km、河床勾配1/100~1/120の河川である。上流では、童子沢親水公園の整備にあわせ、昭和63年から砂防環境整備事業により親水性、景観性に配慮した護岸が整備されている。
背後地が水田利用されている下流部を除き掘込河道となっている。また、童子沢川上流の童子沢は、昭和35年から昭和42年にかけて砂防指定地に指定されており、砂防ダムや流路工などが整備されている。
童子沢川は昭和63年に旧金谷町の進める童子沢親水公園に合わせ、童子沢親水公園より下流約800m区間を対象として砂防環境整備工事が実施され、親水性、景観性に配慮した護岸が整備されている。
砂防環境整備工事区間より下流も、一部山付き区間を除き、ほぼ全区間にわたって護岸が整備されている。
【相賀谷川】
相賀谷川は島田市北部の相賀地区山間部にその源を発し、北東から南西へ流下して大井川19.4km地点左岸へ合流する、延長5.3km、河床勾配1/40~1/220の河川である。
大井川合流点から中流部に位置する相賀小学校までの区間がほぼ築堤河道、相賀小学校より上流がほぼ掘込河道となっている。また、堤防の一部に低い箇所があり霞堤状の形状となっていることから、河川水位が上昇した際には背後地の農地が遊水地のような働きをする箇所が所々にある。
相賀谷川は施工時期が不明であるが、災害時の復旧工事等によって、山付け部を除くほとんどの区間で護岸が整備されている。
近年も災害時の復旧工事等によって整備を進めている。
なお、「静岡県水防計画書(H27)」によれば、下相賀橋より上流300m区間は断面狭小により重要度A、下相賀橋上流300m~滝田橋の2,900m区間は断面狭小により重要度Bの重要水防箇所に指定されている。