治水の現状と課題
(1) 洪水対策
① 水害に対する意識
糸川では、近年、洪水等による甚大な浸水被害は発生していない。このため、水害に関する経験や治水に対する住民意識を把握するため、流域住民にアンケート調査を実施したところ、浸水被害を経験したとの回答は全体の約1割となっており、アンケート調査からも浸水被害を経験した住民が少ないことを示している。
また、身近な川の安全に関する問いに対しては、「安全」や「どちらかといえば安全」と答えた回答者が全体の半数以上を占めており、水害に対する意識啓発が課題である。
住民アンケート調査の概要(出典:糸川水系河川整備計画)
水害の経験に関する住民意見(出典:糸川水系河川整備計画)
身近な川の安全度に関する住民意見(出典:糸川水系河川整備計画)
② 洪水対策
現況河道は、年超過確率1/5規模の降雨による洪水を河川内で流下させる河道断面が確保されている。
しかし、地球温暖化に伴う気候変動などの影響により、近年、全国各地で集中豪雨による激甚な浸水被害が発生している状況を踏まえると、「施設の能力には限界があり、施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生する」との考えに立ち、大規模氾濫に対する減災を目指すため、河川改修などの「ハード対策」を着実に進めていくとともに、防災情報の提供・伝達などの「ソフト対策」による地域住民の避難体制の強化促進を図っていく必要がある。
また、糸川では、上流部が砂防指定地となっており、平成28年3月には「土砂災害ハザードマップ」も策定・公表されている。このことから、これまでの土砂災害の発生状況なども踏まえて、流域住民の風水害、土砂災害に対する防災意識の向上についても引き続き、取り組んでいく必要がある。
熱海市土砂災害ハザードマップ(出典:糸川水系河川整備計画)
(2) 津波対策
① 津波による過去の被害
糸川が流れる熱海地区では、元禄16年(1703年)に発生した元禄地震により、沿岸部に高さ7mの津波が到達し、住宅500戸のうち10戸程度しか残らなかった、標高27mの土地が2m浸水したなどの記録が残っている。
また、大正13年(1923年)に発生した関東大地震では、6mから9mの津波により、家屋162戸が流出し、死者・行方不明者92人との記録が残っている。
熱海市における津波痕跡高(出典:糸川水系河川整備計画)
関東大震災による被害(出典:糸川水系河川整備計画)
② 津波対策
東日本大震災を踏まえた静岡県第4次地震被害想定(「第一次報告」平成25年、「相模トラフ沿いで発生するレベル1地震の津波の想定」平成27年)では、発生頻度が比較的高く、発生すれば大きな被害をもたらす「計画津波」※1と、発生頻度は極めて低いが発生すれば甚大な被害をもたらす「最大クラスの津波」※2の二つのレベルの津波が設定されている。
糸川では「計画津波」は河川内を約0.4km遡上するとともに、「最大クラスの津波」では、河川および海岸堤防を越水し、沿岸部で最大約19ha以上が浸水すると想定されている。
このため、糸川では、海岸における防御と一体となって津波対策施設を整備するとともに、ハード・ソフト対策を総合的に組み合わせた多重防御による津波防災を推進する必要がある。
※1 計画津波:静岡県第4次地震被害想定で対象としている「レベル1の津波」
※2 最大クラスの津波:静岡県第4次地震被害想定で対象としている「レベル2の津波」
平成27年に公表された第4次地震被害想定の追加資料
計画津波(レベル1の津波)による浸水想定図【大正型関東地震モデル】(出典:糸川水系河川整備計画)