波多打川
庵原山地に源を発し、丘陵地の谷底平野を蛇行しながら清水港へ注ぐ波多打川は、昭和30年以降、本格的な改修は実施されておらず、河道や流域には豊かな自然や昔ながらの山里の風景が多く残っている。水質は良好で、シロウオが遡上し、産卵・営巣するほか、箇所ごとの状況に応じた多様な動植物の生息・生育・繁殖環境が形成されている。
また、波多打川の河口部は、『万葉集』以降、多くの詩歌が歌われたり、大正から昭和にかけては夏場の風物詩として知られた『袖師海水浴場』が開催されたりするなど、古くから人々に親しまれており、現在も波多打川は水遊びや魚釣りの場として利用されている。
一方で、流域近傍では近年、新東名高速道路関連のジャンクションやインターチェンジなどが整備されたことから、今後の流域内の土地利用の進展に伴う流出量の増加が懸念されるほか、上流域の山林の荒廃による保水力の低下も懸念される。
このような、波多打川水系の現況及び社会的・歴史的背景を踏まえ、今後の波多打川水系の河川整備の基本理念は以下のとおりとする。
人々が育んだ山里の風景やシロウオが遡上する河川環境を流域の財産として後世に引き継いでいくため、次の事項に特に配慮し、治水・利用・環境が調和した河川整備を行う。
上流域の山林の荒廃による保水力の低下や、今後、予想される流域内の都市化に伴う流出量の増加による治水安全度の低下が懸念される。
このため、想定される降雨に対し、洪水を安全に流下させるため、治水施設の着実な整備及び適正な維持管理に努めるとともに、河川管理の視点から適正な土地利用や森林管理、土砂災害対策など他機関と連携による流域が一体となった総合的な治水対策を推進する。
また、災害による人的被害を軽減するため、より詳細な防災情報の提供はもとより、防災教育や地域との連携による防災体制の強化、地域防災力の向上を目指し、流域住民が「安全で安心して暮らせる川づくり」に努める。
さらに、東日本大震災を踏まえた大規模地震による津波に対する安全の確保などの課題に対しては、施設整備はもとより、ハード・ソフト対策を総合的に組み合わせた多重防御による津波防災を推進する。
波多打川では、清水の代名詞であるシロウオをはじめとし、箇所ごとの状況に応じた多様な生態環境が形成されている。また、水質は良好で、豊かな自然や昔ながらの山里の風景が多くの流域住民に親しまれている。
このため、現況で見られる多様な自然環境や波多打川が本来有していた自然環境の保全・再生に努めるとともに、豊かな自然や昔ながらの山里の風景との調和を図りながら、人が川とふれあうことのできる身近な水辺空間の創出に努める。さらに、地域の活発な河川愛護活動や環境学習を支援するなど、地域住民とともに「人々が育むふるさとの川づくり」を目指す。
本河川整備計画の対象区間は、下記に示す波多打川水系の県管理区間とする。
水系名 | 河川名 | 区間 | 延長(m) | |
起点 | 終点 | |||
波多打川 | 波多打川 | 静岡市清水区茂畑字小谷津 885番地の4地先の小谷津橋 |
海に至る | 4,300 |
出典:静岡県河川指定調書
本河川整備計画の対象期間は概ね20 年間とする。
なお、本計画は、現時点における流域の社会経済の状況、自然環境の状況、河道状況等に基づき策定したものであり、今後の流域を取り巻く社会環境の変化や大規模な災害が発生した場合、新たな知見及び技術の進歩などに合わせ、計画対象期間内であっても必要に応じて適宜見直しを行う。
災害の発生防止又は軽減に関しては、流域内の人口や資産などの重要度、過去の水害の発生状況やその後の河川整備の状況を踏まえ、河川工事を行う。
河川工事について、波多打川水系においては、近年、大きな浸水被害は発生しておらず、また、計画対象区間は堀込河道であり概ね年超過確率1/5の流量を満足している。このことから、年超過確率1/5規模の降雨(時間雨量61.6mm)による洪水を河道内で流下させる能力を維持し、今後は土砂堆積による流下能力の低下を防ぐため、土砂掘削等の適正な維持管理に努める。
また、新東名高速道路の開通に合わせ、周辺ではジャンクションやインターチェンジが整備され、平成24年4月14日に供用開始されている。さらに令和2年には中部横断自動車道が全線開通予定など、交通の利便性向上に伴い、今後も流域の土地利用の進展が予想される地域であることから、堤防、護岸及び堰等の河川管理施設において、常に所定の機能が保たれるよう適正な維持管理に努める。
その際、多様な動植物が生息、生育、繁殖できる良好な河川環境の保全、創出等に配慮する。
河川津波対策に関しては、発生頻度が比較的高く、発生すれば大きな被害をもたらす「計画津波」に対して、人命や財産を守るため、海岸等における防御と一体となって、河川堤防の施設高を確保することとし、そのために必要となる堤防のかさ上げ等を実施することにより津波災害を防御するものとする。
発生頻度は極めて低いものの、発生すれば甚大な被害をもたらす「最大クラスの津波」に対しては静岡市との連携により、土地利用、避難施設、防災施設などを組み合わせた津波防災地域づくり等と一体となって、減災を目指す。
河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関しては、健全な水環境や良好な河川環境を保全するため継続的な流況の把握を行うとともに、既存の水利用(農業用水、防火用水等)、動植物の生息・生育・繁殖環境、景観などに配慮しつつ、関係機関や地域住民と連携を図り、流水の適正かつ合理的な利用が図られるよう努める。
また、基盤整備事業(県営畑地帯総合整備事業)の展開により優良農地が確保される一方、人口減少や第1次産業人口の減少などに起因して山林が荒廃し、山林が有する保水力の低下が懸念されていることから、農地や森林の多面的機能の保全についても関係機関等と連携した取組を促進して、健全な水循環系の構築を目指す。
さらに、河川空間が水遊びや釣りなどに利用されるとともに、川を利用したイベントや清掃活動、環境学習などが行われるなど、地域住民との関わりが深いことから、河川の空間利用に関しては、流域の各々の場所において、地域住民の身近な水辺空間として、望ましい状態で利活用されるように努める。
河川環境の整備と保全に関しては、有識者や住民との連携によって自然環境、地域特性、景観、水辺空間等の様々な視点から治水・利水と調和を図りながら、シロウオなど波多打川を代表する生物や絶滅危惧種のニホンウナギなど、本来生息していたと想定される生物の生息・生育・繁殖環境の保全・再生に努める。
生物の生息生育環境については、不必要な横断工作物の撤去や必要に応じた魚道設置を図るなど、河川上下流、海及び河川周辺、河川内の水域と陸域といったエコトーンとしての連続性を確保するなど、川が有する自然の営力を活用しつつ、河道内植生や魚類等水生生物の生息・生育・繁殖環境に配慮した整備を目指す。
河川の水質については、シロウオをはじめ多様な動植物が生息・生育し、人々が水とふれあえる豊かで清らかな水環境を保全・創出するため、関係機関や地域住民と連携し、汚濁負荷量のさらなる削減を働きかける。
また、学識経験者、地域住民等との連携のもとに、目指すべき環境について関係者が共通の目標を持ちながら取り組み、豊かな自然や昔ながらの山里の風景と調和を図りながら、人が川とふれあうことのできる身近な水辺空間の維持・創出に努める。
波多打川は住民による継続的な河川愛護活動が行われるなど、地元住民にとって身近な空間となっている。
この流域の歴史・文化・風土、豊かな自然環境を踏まえ、流域の人々が身近な河川空間に一層の関心を寄せ、ますます地域から愛される川となるよう、関係自治体のまちづくりに関する諸計画との調整を図りつつ、地域住民や企業など関係機関との協働による河川整備を推進する。
また、日常生活における河川と地域住民との接点が増え、防災意識や河川愛護の精神が育まれ受け継がれていくよう、容易に川へ降りられるような対策を講じるほか、各種情報を幅広く提供し、地域住民の河川に対する意識向上を図るとともに、主体的な住民活動が流域全体に広がるよう連携や支援を推進し、地域防災力の向上や良好な地域のネットワーク、コミュニティの強化促進を図る。また、整備に際しては、学識経験者、地域住民等との連携のもとに、目指すべき環境について関係者が共通の目標を持ちながら取り組み、周辺の歴史・文化と調和を図りながら、人が川とふれあうことのできる身近な水辺空間の維持・創出に努める。