治水事業の沿革と現状
那賀川水系における治水事業は、江戸時代に集落を洪水から守るため河道の付け替えが行われたことに始まるといわれている。
明治4年には上瀬・中瀬間の那賀川川除堤防工事が完成し、岩科川では、大正初期まで二川に別れていた流路を、大正5年にかけて統合する改修事業が行われ、現在の流路を形成した。
その後、昭和33年の狩野川台風による洪水や、死者2名、床上浸水166戸、床下浸水528戸の甚大な被害を被った昭和51年7月洪水などにより度重なる被害を受けてきたことから、災害復旧事業等により那賀川の護岸整備が進められた。近年でも平成17年の台風11号や平成20年の豪雨などにより、浸水被害が発生しているが、那賀川流域では、これまで一定計画に基づく改修は行われていない。
那賀川の現況流下能力は、全川にわたり3年確率規模程度以下であり、十分な治水安全度が確保されておらず、治水上の課題が残されている。
津波被害に関しては、安政元年(1854年)に発生した安政東海地震により、松崎町の沿岸部に高さ3m程度の津波が到達した記録が残っている。現在は静岡県第3次地震被害想定に基づき、松崎港において海岸防潮堤が整備されているが、那賀川河口が開口部となっている。
東日本大震災を踏まえた静岡県第4次地震被害想定(平成25年)では、発生頻度が比較的高く、発生すれば大きな被害をもたらす「計画津波」※1と、発生頻度は極めて低いが、発生すれば甚大な被害をもたらす「最大クラスの津波」※2の二つのレベルの津波が設定されており、那賀川では「計画津波」は河川内を約2.0km以上遡上するとともに、「最大クラスの津波」では、河川及び海岸堤防を越流し、沿岸部で最大約70ha以上が浸水すると想定されている。
※1 計画津波:静岡県第4次地震被害想定で対象としている「レベル1の津波」
※2 最大クラスの津波:静岡県第4次地震被害想定で対象としている「レベル2の津波」