宇久須川,大久須川,赤川
宇久須川は、急峻な山地を背負い過去から幾度となく土砂流出や洪水による被害に見舞われてきた。流域内では、昭和33 年や昭和36 年の洪水被害などを契機に河川整備が進められたほか、砂防堰堤や治山施設の整備による土砂流出防止対策が行われてきたが、近年においても平成25 年に発生した豪雨災害により流域において土砂流出に起因した浸水被害が発生しており、治水安全度はいまだ十分ではない。また、近年、流域内の山地部においてニホンジカ等の野生鳥獣被害が増加しており、下層植生の劣化に伴う保水力低下や土壌流出など河川への影響も懸念されている。
さらに、宇久須川を下流部で渡河する国道136 号は西伊豆観光の主要路線であるとともに緊急輸送路であることから、災害時等における交通の遮断は観光客や高齢化が進む地域経済への影響も大きい。
流域では、近年の気候変動に伴う局地的豪雨等により、河川の氾濫や土砂災害の発生が懸念されているほか、人口と資産が集中する下流域などでは南海トラフ地震に伴う津波による甚大な被害も想定されることから、災害に強く安全で安心な地域づくりが求められている。
一方、流域内では、集落や主要道路が河川に沿って分布しており、宇久須川は、伊豆の山々と海とを結ぶ豊かな自然の中で、そこに暮らす人々や、行きかう人々の目に触れ、生活の軸線ともいえる地域にとって身近な河川である。河道内にはアユカケやニホンウナギ、ヨシノボリ類など多様な生物が生息する自然環境が形成され、堤防を散策する人々の目を楽しませているほか、比高差の大きな築堤構造の区間もあるが、地域住民の河川愛護活動により安全が守られている。こうした宇久須川水系における豊かな環境や、川と地域のつながりを次世代へ継承し、地域の活力向上を図るためには、今後も、河川周辺の自然環境や、地域の生活、文化などを守り、育てながら西伊豆町や地域住民等と連携し河川を軸とした魅力ある地域づくりを推進していくことが求められている。
これらを踏まえ、宇久須川水系の河川整備における基本理念を次のとおり定める。
宇久須川においては、山々と海を結び、地域のくらしの中に息づく豊かな環境を守り育てるため、洪水、津波、土石流などの災害の発生の防止と軽減を図るとともに、住む人、行き交う人にとって安心感を与え、身近で親しみやすい水辺環境の形成に取り組むことにより、地域から愛される魅力ある川づくりを目指す。
宇久須川水系の河川整備の基本理念を踏まえ、水源から河口まで一貫した計画のもとに、河川の総合的な保全と利用に関する基本方針を次のとおりとする。この基本方針に基づき、目標を明確にして段階的に河川整備を進める。
災害の発生の防止または軽減に関しては、河川の規模、既往洪水、流域内の資産・ 人口などを踏まえ、県内の他河川とのバランスを考慮し、年超過確率 1/30 規模の降雨による洪水を安全に流下させることのできる治水施設の整備を目指す。
また、流域の約9 割を山地が占め、過去においても斜面崩落に起因した災害が発生していることから、上流域における砂防事業との連携や適正な森林保全・農地保全の働きかけなど、流域が一体となった治水対策を推進するとともに、将来にわたり流域内の適正な土地利用がなされるよう、西伊豆町や関係機関との調整・連携を図る。
さらに、気候変動等の影響による局所的豪雨や想定を超える洪水、整備途上段階での施設能力以上の洪水が発生した場合においても被害をできるだけ軽減するため、平常時より西伊豆町や住民等と連携し、観光客や要配慮者を含めた防災情報伝達体制や警戒避難体制の整備、防災訓練による防災意識の向上など、自助・共助・公助による地域防災力の充実、強化を図る。
河川津波対策に関しては、静岡県第4次地震被害想定に基づく「レベル1の津波」を「計画津波」とし、「計画津波」に対して人命や財産を守るため、地域特性を踏まえて行う海岸等における防御と一体となって、津波災害を防御する。
また、発生頻度は極めて低いものの、発生すれば甚大な被害をもたらす「レベル2の津波」を「最大クラスの津波」とし、「最大クラスの津波」に対しては、施設対応を超過する事象として、住民等の生命を守ることを最優先とし、西伊豆町との連携により、土地利用、避難施設、防災施設などを組み合わせた津波防災地域づくり等と一体となって減災を目指す。なお、「計画津波」対策の実施にあたっては、地域特性を踏まえ、河川や海岸の利用、景観に配慮するものとする。
河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関しては、美しい景観の形成のほか、健全な水循環系の維持、良好な水質の保全、豊かな水量の確保など流域管理の観点も加え、流水や土地の適正利用、農地や森林の保全、生活排水の適正処理について西伊豆町や関係機関及び地域住民と適切に連携しながら、河川及び流水の適正な管理等に努める。
河川空間の適正な利用に関しては、宇久須川流域の成り立ちや歴史、治水対策の必要性、動植物の生息・生育・繁殖などの自然環境、景観等に配慮しながら、人が川とふれあえる空間の確保に努める。
河川環境の整備と保全に関しては、これまでの地域の人々と宇久須川の関わりを考慮しつつ、流域の豊かな自然により形成された良好な河川景観の維持・形成を図るとともに、河川を軸とした周辺の水路や水田、河畔林等が地域の貴重な水辺環境であることを踏まえ、河川と山、海、周辺の水辺環境との連続性の確保に努める。また、アユカケやニホンウナギ、ヨシノボリ類など、宇久須川に生息する生物が生息・生育・繁殖できるよう多様な河川環境を構成する瀬、淵、河岸の水陸移行帯等の保全に努める。このため、河川整備の計画づくりや実施等においては、河道特性を踏まえて、深掘れを許容する護岸整備や、堆砂を許容する拡幅部の確保などについて配慮する。
河川の維持管理に関しては、災害の防止、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の保全の観点から、河川の持つ多面的機能が十分に発揮できるよう西伊豆町や地域住民等と連携し、堤防、護岸等の治水施設の状態や魚道を含めた河道の自然環境、土砂堆積などに関する点検やモニタリング等を行い、必要に応じて補修・修繕を実施する。
また、許可工作物についても適切な維持管理や洪水時の操作等を行うよう施設管理者に働きかける。
河川整備にあたり、宇久須川水系で育まれてきた豊かな自然環境や、受け継がれてきた歴史などを、地域の共有財産として守り、育て、個性ある地域の持続的な発展に活用できるよう、伊豆地域における地域振興、西伊豆町のまちづくりや景観づくりなどに関する計画との調整、連携に努める。
また、河川環境や防災に関する情報を地域住民等と幅広く共有し、環境教育や防災学習の充実を図るとともに、住民参加による河川愛護活動等を積極的に支援し、西伊豆町や地域住民等との協働により取り組む。