立保川水系

立保川

河川整備の基本理念

立保川流域では、土砂災害による被害が度々発生しており、土砂生産が多い上流域では砂防堰堤等による対策が行われてきた。また、平成16年(台風22号)には、溢水等による浸水被害や河川の施設災害が発生したことに伴い災害復旧事業等が実施されており、近年では大きな災害は発生していない。
しかし、流域では、近年の気候変動に伴う豪雨の激化による河川の氾濫や土砂災害の発生、南海トラフ地震に伴う津波による甚大な被害も想定されることから、災害に強く安全で安心な地域づくりが求められている。
さらに、下流部で立保川を渡河する県道沼津土肥線は、観光の主要路線であるとともに緊急輸送路であることから、洪水や津波、土石流に伴う交通の途絶は周辺地域の孤立が推測され観光客や高齢化が進む地域経済への影響も大きい。
一方、立保川流域の含まれる北西伊豆海岸地区は「富士箱根伊豆国立公園」の特別地域に指定されており、海岸部は変化に富んだ海岸部の地形や豊かな自然環境に恵まれている。また、下流部では山の斜面や河川に近接してみかん畑が広がり、河川愛護活動の一環として、地域住民による河川の清掃及び草刈りが実施されるなど、地域産業、地域住民の生活に密着した河川である。
これらを踏まえ、立保川水系の河川整備における基本理念を次のとおり定める。

基本理念

立保川流域は、入り組んだ海岸線の背後に急峻な山地が迫り、急勾配で流れる立保川の下流部に広がるみかん畑に囲まれるように集落が形成され、駿河湾越しに望む富士山やみかん畑などの景観資源に恵まれているという特徴を有している。立保川においては、このような良好な景観や環境を有する水辺空間が形成されるよう配慮しながら、洪水、津波、土石流などの災害による被害の防止または軽減を図ることにより、住む人、訪れる人にとって安心感を与えられるような川づくりを目指す。

 

河川整備の基本方針

立保川水系の河川整備の基本理念を踏まえ、水源から河口まで一貫した計画のもとに、河川の総合的な保全と利用に関する基本方針を次のとおりとする。この基本方針に基づき、目標を明確にして段階的に河川整備を進める。

ア 洪水、津波、高潮等による災害の発生の防止または軽減に関する事項

災害の発生の防止または軽減に関しては、河川の規模、既往の洪水、流域内の資産・人口等を踏まえ、県内の他河川とのバランスを考慮し、年超過確率1/30規模の降雨による洪水を安全に流下させることのできる治水施設の整備を目指す。
また、上流域における砂防事業との連携や適切な森林保全・農地保全の働きかけなど、流域が一体となった治水対策を推進するとともに、将来にわたり流域内の適正な土地利用がなされるよう、流域管理の視点に立ち、沼津市や関係機関との調整・連携を図る。
加えて、下流部の市街地を貫流する区間では、家屋が河道に近接していることから、土地利用に配慮し、迅速かつ的確な水防活動ができるような治水対策を講じる。
さらに、気候変動の影響等による想定を超える洪水や、整備途上段階での施設能力以上の洪水が発生した場合においても、できる限り被害を軽減するため、平常時より沼津市や住民等と連携し、観光客や要配慮者を含めた防災情報の伝達体制や避難体制の整備、防災教育や防災知識の普及啓発活動など、自助・共助・公助による地域防災力の充実、強化を図る。
河川津波対策に関しては、静岡県第4次地震被害想定に基づく「レベル1の津波」を「計画津波」とし、「計画津波」に対して人命や財産を守るため、地域特性を踏まえて行う海岸等における防御と一体となって、津波災害を防御する。
また、発生頻度は極めて低いものの、発生すれば甚大な被害をもたらす「レベル2の津波」を「最大クラスの津波」とし、「最大クラスの津波」に対しては、施設対応を超過する事象として、住民等の生命を守ることを最優先とし、沼津市との連携により、土地利用、避難施設、防災施設などを組み合わせた津波防災地域づくり等と一体となって減災を目指す。なお、「計画津波」対策の実施にあたっては、河口部から駿河湾越しに富士山を望む美しい景観を有しているという地域特性を踏まえ、河川や海岸の利用、景観に配慮するものとする。

イ 河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の整備と保全に関する事項

河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関しては、健全な水循環の維持や美しい景観の形成、流水や土地の適正利用、農地や森林の保全、生活排水の適正な処理に流域の観点も踏まえ、沼津市や関係機関及び地域住民と適切に連携しながら、河川及び流水の適正な管理等に努める。
河川空間の適正な利用に関しては、立保川の成り立ちや歴史、治水対策の必要性、動植物の生息・生育・繁殖などの自然環境、景観等に配慮しながら、人が川とふれあえる空間の確保に努める。
河川環境の整備と保全に関しては、河川と山、海、周辺環境との連続性の確保に努めるとともに、自然の淵は残すなど、急流で人工的な厳しい河川環境の中で生息する種にとっても、生息・生育しやすい環境となるよう、十分に配慮することとする。
また、河川景観に関しては、河口部と海岸との連続性の確保など周辺の環境や街づくりと調和した美しい景観が形成されるよう、河川整備や維持管理に際して、沼津市や地域住民等との調整や連携を図ることとする。

ウ 河川の維持管理に関する事項

河川の維持管理に関しては、災害の防止、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の保全の観点から、河川の持つ多面的機能が十分に発揮できるよう沼津市や関係機関及び地域住民と連携し、堤防、護岸等の治水施設の状態や魚道を含めた河道の自然環境、土砂堆積などに関する点検やモニタリング等を行い、必要に応じて補修・修繕を実施する。

エ 地域との連携と地域発展に関する事項

立保川を地域の共有財産として守り、育て、地域の持続的な発展に活用できるよう、立保川の河川環境や防災等に関する情報を地域と幅広く共有するとともに、地域における環境保全や防災活動、住民参加による河川愛護活動等を積極的に支援し、地域との協働により住む人、行き交う人にとって安心感を与えられるような川づくりを推進する。