大川
大川流域は、日本初の洋式帆船「ヘダ号」を造船した歴史を有するなど古くから海とのかかわりが深く、観光客や地域の住民が集まる戸田地域の中心的な地区であり、その暮らしには歴史や文化が密接にかかわっていることが伺える。また、大川は、流域の多くを占める山地からの洪水から地域を守る重要な役割を担っている。
急峻な山地と脆弱な地質からなる大川水系では、昭和13 年や昭和36 年に洪水や山崩れ等によって大きな被害が発生したが、災害を契機とした堤防や護岸、砂防・治山施設等の整備により、近年では大きな災害が発生していない。しかし、流域内にある部田神社には災害復旧の記念碑が建立されたり、昭和13 年と36 年に発生した災害の被災写真が残されていたりと、先人の水害との戦いの歴史を感じ取ることが出来る。また、海岸沿いを中心に発展した地域であるので、南海トラフ地震に伴う津波に対する安全の確保にも課題を有している。
今後、気候変動に伴う豪雨の激化による河川の氾濫や土砂災害の発生、南海トラフ地震に伴う津波など、戸田地区の中心地が低平地に位置するといった地形的な特徴や戸田漁港や道の駅「くるら戸田」などの各施設に来訪者や地域住民が多く集まることから、ひとたび発生すると甚大な被害の発生が懸念され、さらには地区の孤立も危惧されることから、居住者、来訪者ともに安全で安心な、災害に備える地域づくりが求められている。
また、人口減少等に伴い人々と大川とのかかわりも変化しているが、魅力ある地域づくりを目指すためには、地元住民による河川清掃、除草等の河川美化活動のような日常的に行われている集落や人と川との良好な関係を維持し、アユやボラなど川と海を行き来する生物が生息する豊かな自然と戸田の風光明媚な景観が実感できる川づくりを進めることが重要である。
これらを踏まえ、大川水系の河川整備における基本理念を次のとおり定める。
沼津市戸田地区の中心を流れる大川において、先人達が遺した防災施設等を引き継ぎ、過去の災害から自然の猛威を学び、洪水や土石流、津波などによる災害の発生防止と軽減を図るとともに、伊豆の山と海を繋ぐ大川の地域資源としての魅力の向上を図ることによって、住む人もくる人も、戸田地区の風光明媚な景観や豊かな自然を実感できる川づくりを目指す。
大川水系の河川整備の基本理念を踏まえ、水源から河口まで一貫した計画のもとに、河川の総合的な保全と利用に関する基本方針を次のとおりとする。この基本方針に基づき、目標を明確にして段階的に河川整備を進める。
災害の発生の防止または軽減に関しては、河川の規模、既往の洪水、流域内の資産・人口等を踏まえ、県内の他河川とのバランスを考慮し、年超過確率1/30 規模の降雨による洪水を安全に流下させることのできる治水施設の整備を目指す。
流域の約9割を山地が占める典型的な山地流域であり、過去においても斜面崩落に起因した災害が発生していることから、上流域における砂防事業との連携や適正な森林保全・農地保全の働きかけなど、流域が一体となった治水対策を推進するとともに、将来にわたり流域内の適正な土地利用がなされるよう、流域管理の視点に立ち沼津市や関係機関との調整・連携を図る。
さらに、気候変動の影響等による想定を超える洪水や、整備途上段階での施設能力以上の洪水が発生した場合においても、できる限り被害を軽減するため、平常時より沼津市や住民等と連携し、観光と防災が共生したまちづくりにも寄与するよう観光客や要配慮者を含めた防災情報の伝達体制や避難体制の整備、防災教育や防災知識の普及啓発活動など、自助・共助・公助による地域防災力の充実、強化を図る。
河川津波対策に関しては、静岡県第4次地震被害想定に基づく「レベル1の津波」を「計画津波」とし、「計画津波」に対して人命や財産を守るため、地域特性を踏まえて行う海岸等における防御と一体となって、津波災害を防御する。
また、発生頻度は極めて低いものの、発生すれば甚大な被害をもたらす「レベル2の津波」を「最大クラスの津波」とし、「最大クラスの津波」に対しては、施設対応を超過する事象として、住民等の生命を守ることを最優先とし、沼津市との連携により、土地利用、避難施設、防災施設などを組み合わせた津波防災地域づくり等と一体となって減災を目指す。なお、「計画津波」対策の実施にあたっては、地域特性を踏まえ、河川や海岸の利用、景観に配慮するものとする。
河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関しては、健全な水循環の維持や美しい景観の形成、流水や土地の適正利用、農地や森林の保全、生活排水の適正処理に流域管理の観点も加え、沼津市や関係機関及び地域住民と適切に連携しながら、河川及び流水の適正な管理等に努める。
河川空間の適正な利用に関しては、大川流域の成り立ちや歴史、治水対策の必要性、動植物の生息・生育・繁殖などの自然環境、景観等に配慮しながら、人が川とふれあえる空間の確保に努める。
河川環境の整備と保全に関しては、重要種のアマゴを含む多様な動植物が生息・生育・繁殖できる豊かな自然環境の保全を図る。特に河口域においては、アユやボラなどの川と海を行き来する生物が生息する汽水域特有の生態系や景観等が形成されているため、河道掘削や津波対策等の事業を行う場合は、最大限に配慮する。また、河川整備を行う際は、上下流や支川との連続性の確保や水生生物の生息場となる瀬・淵・砂州等の形成など、生物の生活史を支える環境を保全・創出するよう努める。
なお、人と河川との豊かなふれあいの確保については、中流部のさくら橋周辺にある親水施設の整備や適正な維持管理により、水辺に近付きやすい環境づくりに努め、大川と周辺の自然環境、戸田温泉等の観光資源、そして海岸が一体となった魅力ある地域づくりに繋げる。
河川の維持管理に関しては、災害の防止、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の保全の観点から、河川の持つ多面的機能が十分に発揮できるよう沼津市や関係機関及び地域住民と連携し、堤防、護岸等の治水施設の状態や魚道を含めた河道の自然環境、土砂堆積などに関する点検やモニタリング等を行い、必要に応じて補修・修繕を実施する。
また、下流域で土砂が貯まりやすい流域特性を踏まえ、土砂堆積の状況等を把握し、必要に応じて河川環境に配慮した河床掘削等を実施するなど、良好な状態を保持するよう努める。
また、河川工作物についても適切な維持管理を行うよう施設管理者に働きかける。
海越しに見える富士山や天然の良港である戸田漁港などの美しい景観のなかで、伊豆地域における地域振興、戸田地区のまちづくりや景観づくりなどに関する計画との調整、連携に努める。また、防災意識や河川愛護の精神が育まれ受け継がれていくよう、河川と地域住民とのふれあいの向上に努めるとともに、川への関心が高まるよう、大川流域に関する自然環境の特徴、水害リスク、河川整備等の情報を、地域の拠点となる「くるら戸田」を活用して幅広く共有するなど、沼津市や地域住民との協働により安全で安心な川づくりを推進する。