湯日川
湯日川流域は、昭和44年に東名高速道路の吉田インターチェンジが開設し、平成21年6月に富士山静岡空港が開港した。富士山静岡空港の開港に合わせて県道静岡空港線が建設され、県道住吉金谷線、県道島田吉田線を経由して吉田インターチェンジと接続、平成26年には県道島田吉田線が沿岸部の主要な幹線道路である国道150号まで延伸された。また、湯日川流域の上流付近には、金谷御前崎連絡道路が建設され、富士山静岡空港と重要港湾である御前崎港が結ばれ、将来、新東名高速道路島田金谷インターチェンジとも連結する計画となっており、湯日川流域は、陸・海・空の交通ネットワークの要衝となる地域の一部として、地域の利便性が向上し、流域の発展が期待される。
湯日川流域では、昭和12年、13年の大洪水や昭和57年9月洪水により大きな被害が発生したが、災害を契機とした築堤や河道掘削の河川整備が進められたほか、空港関連事業に伴う改修により、近年では大きな浸水被害は発生していない。また、海岸近くに市街地が形成されており、地震による津波に対する安全の確保にも課題を有している。
今後、気候変動に伴う豪雨の激化による河川の氾濫や土砂災害の発生が懸念されており、また低平地に人口と資産が集中する下流から中流部では南海トラフ地震に伴う津波による甚大な被害も想定されることから、災害に強く安全で安心な地域づくりが求められている。
一方、湯日川は、河口部や中流部には豊かな自然環境を感じることができる親水公園があり、中流部は散策、上流部では小学校の環境学習の場として活用されるなど地域住民にとっての身近な空間として日常的に利用されている。今後も、流域の貴重な自然環境や歴史・文化を守りながら、吉田町、島田市と地域住民等と連携し河川を軸とした魅力ある地域づくりを推進していくことが求められる。
これらを踏まえ、湯日川水系の河川整備における基本理念を次のとおり定める。
湯日川流域においては、陸・海・空の交通ネットワークの要衝として利便性が向上し、賑わいの創出や地域の活性化が期待されている。このことを踏まえ、洪水、津波や土石流などの災害による被害の防止または軽減を図るとともに、地域住民にとって身近なうるおいのある水辺空間の創出に取り組むことにより、安心・安全で地域に親しまれる憩いの場となる川づくりを目指す。
湯日川水系の河川整備の基本理念を踏まえ、水源から河口まで一貫した計画のもとに、河川の総合的な保全と利用に関する基本方針を次のとおりとする。この基本方針に基づき、目標を明確にして段階的に河川整備を進める。
災害の発生の防止または軽減に関しては、河川の規模、既往の洪水、流域内の資産・人口等を踏まえ、県内の他河川とのバランスを考慮し、年超過確率1/50規模の降雨による洪水を安全に流下させることのできる治水施設の整備を目指す。
また、交通の拠点としての地域特性より、さらなる市街化の進展が予想されることから、洪水等に対して浸水被害の軽減が図れるよう、水位観測等による水量の定期的なモニタリング、流域における土地利用計画との調整や土地利用事業の適正化に関する指導等、関係機関と連絡調整・連携による流域が一体となった総合的な治水対策を推進する。
さらに、気候変動の影響等による想定を超える洪水や、整備途上段階での施設能力以上の洪水が発生した場合においても、被害をできる限り軽減するため、平常時より吉田町、島田市や住民等と連携し、要配慮者を含めた防災情報の伝達体制や避難体制の整備、防災教育や防災知識の普及啓発活動など、自助・共助・公助による地域防災力の充実、強化を図る。
河川津波対策に関しては、静岡県第4次地震被害想定に基づく「レベル1の津波」を「計画津波」とし、「計画津波」に対して人命や財産を守るため、地域特性を踏まえて行う海岸等における防御と一体となって、津波災害を防御する。
また、発生頻度は極めて低いものの、発生すれば甚大な被害をもたらす「レベル2の津波」を「最大クラスの津波」とし、「最大クラスの津波」に対しては、施設対応を超過する事象として、住民等の生命を守ることを最優先とし、吉田町との連携により、土地利用、避難施設、防災施設などを組み合わせた津波防災まちづくり等と一体となって減災を目指す。なお、河口部には、津波対策水門として湯日川水門が整備されており、今後もその機能が十分に発揮されるよう適切な維持管理を行う。
河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関しては、流域内の農地の灌漑に大井川用水が利用されている現状を踏まえ、健全な水循環の維持や美しい景観の形成の観点も加え、流水や土地の適正利用、農地や森林の保全、生活排水の適正処理について吉田町、島田市や関係機関及び地域住民と連携しながら、河川及び流水の適正な管理等に努める。
河川空間の適正な利用に関しては、湯日川流域の成り立ちや歴史、治水対策の必要性、動植物の生息・生育・繁殖などの自然環境、景観や近隣施設との連携等に配慮しながら、水辺に近づきやすい人が川とふれあえる空間の確保に努める。
河川環境の整備と保全に関しては、重要種を含む多様な動植物が生息・生育・繁殖できる豊かな自然環境の保全を図る。特に河口部においては、汽水域特有の生態系や景観等が形成されているため、河道掘削や津波対策等の事業を行う場合は、最大限に配慮する。また、中上流部においては、瀬と淵のある河床環境や、堤防・水際の植生が豊富で良好な環境が形成されていることから、河川整備を行う際は、生物の生息場となる瀬・淵・砂州等の形成など、生物の生活史を支える環境を確保するよう努める。中・上流部には落差が多く存在し、縦断方向の連続性が確保されていないことから、整備にあたっては上下流や支川との連続性の確保を図る。
なお、人と河川との豊かなふれあいの確保については、親水施設の整備や適正な維持管理により、水辺に近付きやすい環境づくりに努め、湯日川周辺の自然環境、海岸が一体となった魅力ある地域づくりに繋げる。
河川の維持管理に関しては、災害の防止、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の保全の観点から、河川の持つ多面的機能が十分に発揮できるよう吉田町、島田市や関係機関及び地域住民と連携し、堤防、護岸等の治水施設の状態や魚道を含めた河道の自然環境、土砂堆積などに関する点検やモニタリング等を行い、必要に応じて補修・修繕を実施する。
また、許可工作物についても適切な維持管理や洪水時の操作等を行うよう施設管理者に働きかける。
河口部に残されている自然地形などの良好な河川環境や、湯日川が地域住民の憩いの場、環境・歴史の学び場となっていることなど、地域と川の良好な関係が築かれている湯日川流域において、この流域の歴史・文化・風土、豊かな自然環境を踏まえ、個性を活かした流域の発展のため、関係自治体のまちづくりに関する諸計画と調整を図りつつ、地域住民や企業など関係機関との協働による河川整備を推進する。
また、日常生活で河川と地域住民との接点が増え、防災意識や河川愛護の精神が育まれ受け継がれていくよう、湯日川流域における自然環境の特徴、水害リスクや特性ならびに特色ある歴史・文化などに関する情報を幅広く提供する。さらに、住民の自発的な川づくりへの参画を促し、主体的な住民活動が流域全体に広がるよう連携や支援を推進し、地域防災力の向上や良好な地域のネットワーク、コミュニティの強化が図れるよう吉田町や島田市と連携していく。