弁財天川,大須賀新川,西大谷川,小川,下紙川,坊主淵川,三沢川,近江ヶ谷川
弁財天川流域には、かつて横須賀城があり、陸運と海運の拠点として栄えていたことから、地域住民は横須賀城下であったことの誇りや流域の文化や歴史を大切にしている。
この流域は、宝永地震により河口部が隆起したことで潟湖の陸地化が進み、その後の農地整備の進展等によって現在の地形や流路が形成された。そのため、中下流域は勾配のほとんどない平坦な地形で、かつ標高が低いことから、ひとたび大雨が降れば支川や水路からの排水が困難になり、排水機場の整備が進んだ現在においても内水を中心とした浸水被害に対し、脆弱な流域となっている。さらに、気候変動に伴う豪雨の激化が懸念されることから、流域の安全・安心を構築していくためには、過去の水害や津波災害に学び、関係機関と連携して、流域一体となって今後の災害に備えることが重要である。
また、弁財天川の河口部などには、潮位の変動により生じる環境を利用する生物にとって良好な生息・生育環境であり、水質浄化作用も有する干潟が形成されているほか、流域内には地域住民の生活に密接に関わってきた水田があり、その周辺の河川環境や景観を一体的に保全していく必要がある。
これらを踏まえて、弁財天川水系の河川整備における基本理念を次のとおり定める。
弁財天川流域においては、過去の洪水や津波などを経て先人達が遺した被災経験や防災施設等を引き継いで、流域一体となって総合的な防災対策を推進していく。また、地域が大切にしている流域の文化や歴史等を尊重しながら、先人達が守り、寄り添ってきた河口部の干潟や流域内の水田などの多様な河川環境・景観を保全し、次の世代に引き継いでいくため、地域住民が安全・安心とともに豊かな自然環境を体感でき、さらにそれを育んでいくことができる川づくりを目指す。
弁財天川水系の河川整備の基本理念を踏まえ、水源から河口まで一貫した計画のもとに、河川の総合的な保全と利用に関する基本方針を次のとおりとする。この基本方針に基づき、目標を明確にして段階的に河川整備を進める。
災害の発生の防止または軽減に関しては、河川の規模、既往の洪水、流域内の資産・人口等を踏まえ、県内の他河川とのバランスを考慮し、現状の自然の遊水機能を考慮して年超過確率1/30規模の降雨による洪水を安全に流下させることのできる治水施設の整備を目指す。
また、流域における土地利用計画との調整や土地利用事業の適性化に関する指導、砂防事業との適切な調整や連携、森林や農地の保全に関する袋井市、掛川市ほか関係機関との情報共有等を通じて、流域が一体となった総合的な防災対策を推進する。
なお、流域の自然の遊水機能を保全するためには、流域住民の協力が不可欠であることから、関係市と連携して、流域の特性について十分な理解が得られるよう、流域住民に説明した上で、協力を求めていく。ただし、流域の状況の変化や農業の形態の変化を確認しながら、必要に応じて治水施設や流域の防災施設について見直しを検討する。
さらに、気候変動の影響等による想定を超える洪水や、整備途上段階での施設能力以上の洪水が発生した場合においても、被害をできる限り軽減するため、平常時より袋井市、掛川市や住民等と連携し、要配慮者を含めた防災情報の伝達体制や避難体制の整備、防災教育や防災知識の普及啓発活動など、自助・共助・公助による地域防災力の充実、強化を図る。
河川津波対策に関しては、静岡県第4次地震被害想定に基づく「レベル1の津波」を「計画津波」とし、「計画津波」に対して、人命や財産を守るため、地域特性を踏まえて行う海岸等における防御と一体となって、津波災害を防御する。
また、発生頻度は極めて低いものの、発生すれば甚大な被害をもたらす「レベル2の津波」を「最大クラスの津波」とし、「最大クラスの津波」に対しては、施設対応を超過する事象として、住民等の生命を守ることを最優先とし、袋井市、掛川市との連携により、土地利用、避難施設、防災施設などを組み合わせた津波防災地域づくり等と一体となって減災を目指す。なお、「計画津波」対策の実施にあたっては、河口部の干潟に代表される弁財天川特有の河川環境などに配慮するものとする。
河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関しては、健全な水循環の維持や美しい景観の形成の観点も加え、土地の適正利用、森林や農地の保全、生活排水の適正処理について袋井市、掛川市などの関係機関や地域住民等と連携しながら、河川及び流水の適正な管理等に努める。
河川環境の整備と保全に関しては、重要種を含む多様な動植物が生息・生育・繁殖できる豊かな自然環境の保全を図る。弁財天川は、県管理区間全てが感潮区間となっており、河口部や下流部では潮位の干満差により干潟が形成されている。特に、河口部は動植物にとって良好な生息・生育場となっており、水質保全にとっても重要である干潟が広がるほか、止水域や流れの緩やかな環境を有している。このため、河川整備や津波対策等の事業を行う場合は、汽水域特有の生態系や景観等に配慮する。干潟は微生物から底生生物、貝類、魚類や鳥類など食物連鎖により多様な生物が生息でき、植物が生育できる環境であることから、潮位の干満差により形成される現在の干潟環境を保全するため、現況河床は極力残し、水域と陸域の連続性を維持するよう留意する。
河川整備の実施にあたっては、底生生物等が生息する河床部に配慮し、潮位の影響を考慮して行うものとする。また、上下流や支川との連続性の確保や水生生物の生息場となる瀬・淵・砂州等の形成など、生物の生活史を支える環境を確保するよう努める。
なお、河川の適正な利用や人と河川との豊かなふれあいの確保については、弁財天川の成り立ちや歴史、治水対策の必要性、動植物の生息・生育・繁殖や多様な生物と河口部や下流部に形成された干潟などの自然環境、景観に配慮しながら、親水施設の整備や適正な維持管理により、水辺に近づきやすい環境づくりに努め、弁財天川と周辺の自然環境や海岸が一体となった魅力ある地域づくりに繋げる。
河川の維持管理に関しては、災害の防止、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の整備と保全の観点から、河川の持つ多面的機能が十分に発揮できるよう袋井市、掛川市などの関係機関や地域住民等と連携し、堤防等の治水上重要な河川管理施設の機能を確保するため、平常時及び洪水時における巡視、点検を適切に実施する。
また、支川の水門や排水機場についても、適切な維持管理や洪水時の操作等を行うよう施設管理者に働きかける。
リバーフレンドシップ活動等、地域住民が河川管理に積極的に参画する取組を袋井市、掛川市と連携し推進する。
また、袋井市、掛川市などの関係機関と連携し、流域で育まれた文化や歴史、河口部の干潟に代表される貴重な河川環境や、低平地へ湛水する地形的特性、水害リスク等の防災に関する情報を地域住民に幅広く発信することにより、川への関心や誇りに対する地域の意識醸成に努める。さらに、地域住民に対し、河口部の干潟やそれに付随する生態系等の環境教育、河川美化に関する意識啓発、防災学習を行うことにより、河川愛護意識、防災意識が育まれ、地域の誇りとしての河川環境が次の世代へ受け継がれていくよう努める。